レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「連れてくるのではなかったわ! どうしましょう! 人がたくさんいるところは苦手だと言っていたのに!」
「とにかくここを出よう」
 紳士らしく、公爵はロイを抱え上げた。ざわざわしている広間を通り抜け、一度廊下に出る。そこにいた使用人に静かな部屋まで案内させ、その部屋のソファにそっとロイをおろした。

「服をゆるめてあげなさい――わたしは、医者を呼んでこよう」
 ロイは小声で何か言う。
「え……なぁに? ええ、わかったわ」
 エリザベスは、あわただしく部屋を出ていこうとするオルランド公爵を呼び止めた。

「お医者様はけっこうです。申し訳ないのですが、お水を頼んでもらえませんか? コルセットに慣れていないので気分が悪くなっただけだそうです」
「わかった」
 公爵が部屋を出ていく。エリザベスは飛び上がって扉に駆け寄り、鍵をかけた。
「成功した?」
「ばっちり!」
 ウィンクしたロイはエリザベスに財布を差し出す。

「素敵! じゃあ中を確認しましょう――あら、たいしたものは入ってなさそうね」
 素早く財布の中身を確認する。硬貨、紙幣、もらったであろう名刺。そしてメモが何枚か。
「六月二十一日 十五時 レクタフォード十五番地」
 読み上げて、エリザベスは舌打ちする。
「何のために行くのか書いてないなら、意味がないじゃないの!」

 とりあえず、急いでそれを手帳に記す。他に何人かの名前や住所を書いたメモの内容をすべて書き込んだ。
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