レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「でも、悪いわ……あなたもパーティー楽しんでいるでしょう?」
「思ってたほど楽しくなかったから、かまわないよ。車玄関に回すから」
 一応、遠慮はしてみせたものの、結局は彼の車に同乗させてもらえることになった。彼はすばやく身を翻して、車を取りに行ってくれる。

「ロイ……もう少しだけ、女の子のふりを頑張ってね――財布は?」
「女装は疲れるけど、しかたないさ、お嬢さん。財布はもちろん戻しておいたよ」
「そろそろ行きましょうか。誰かにリチャードへの伝言を頼めばいいわ」
 立ち上がったものの、ロイはあいかわらずよろよろとしている。途中で使用人を捕まえて伝言を頼み、玄関に出ると、ちょうどダスティの車が来たところだった。
 
 すぐに目の前に停車したのは、ダスティ一人で乗るには少し大きすぎるのではないかと思われる車だった。
 ロイに手を貸してエリザベスは車の後部座席に乗り込む。無言のままダスティは車を発進させた。
 
「ありがとう。助かったわ」
「――で? 何が目当てだったわけ?」
 彼が口を開いたのは、リチャードの屋敷を出てしばらくしてからのことだった。
 何が目当て、と問われたところで心臓が跳ね上がったけれど、平静を装って、エリザベスは顎を上げた。

「何の話よ?」
「わざわざ女装までさせてさ。オルランド公爵の弱みでもつかもうとしてた?」
 後部座席の二人は顔を見合わせた。ロイの女装はかなりいいところまで行っていたはずだ。広間は薄暗かったし、ばれるとは思っていなかった。
「何で――」
 ロイが焦った声を出した。あわてたエリザベスが肘でつつくが、少女のものとは違う声が車内に響く。
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