レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「俺、失敗したかもしんない」
「失敗って――」
「財布を戻した時、気づかれたような気がするんだ」
 気づいたのなら、なぜ公爵は何も言わなかったのだろう。エリザベスの背中を冷たいものが伝う。
「気づかれたのなら、危険だ」
 ダスティは顔をしかめた。
 
「あの人は――まあいい。続きはリズ、君の家に行ってからにしよう。きちんと、話をしてくれるだろう?」
「……そう……そう、ね」
 エリザベスの返事に満足した様子で、彼は、再び車を発進させる。エリザベスはため息をついて、背もたれに背中を預けた。

 深いことなんて考えていなかった。懐中時計を取り戻したかっただけで、誉められたことではないのをわかっていて乗り込んだ。
 危険であることはうすうすわかっていたけれど、こんな忠告をされるほどのこととは思ってもいなかった。エリザベスの判断が甘いと言われたら、受け入れるしかない。
 
 エリザベスの行動が、公爵を刺激してしまった? 公爵が危険人物だなんて思ってみたこともなかった。
 エリザベスがぐるぐる回る頭を抱えている間に、車はマクマリー家の屋敷まであともう少しというところまでたどりついていた。
 だが、そこで不意に、ハプニングが起きる。
 
「ハンドルがきかない――何でだ!?」
「うそぉ!」
 ダスティの叫びに、エリザベスの悲鳴が重なり、ロイが大声をあげた。車は道の左右をふさいでいるガードレールを突き破り、転げ落ちていく。
「――きゃあああああ!」
 自分が派手にもう一度悲鳴をあげるのを自覚し――そして次の瞬間、エリザベスの視界は真っ暗になった。
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