レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
崖の下にて
 それから、どれくらいの時間が過ぎたのかはわからない。想い瞼をこじあけた時には、隣に座っていたはずのロイを下敷きにしていた。車は上下が逆になっていて、天井が地面についている。
「ロイ……大丈夫?」
「あ、リズお嬢さん」
 そっと声をかけると、彼も目を開いた。エリザベスは擦り傷程度だが、ロイの方もたいした怪我はなさそうだ。

「あ――ダスティは!?」
 そういえば、一人足りない。あわてて見回せば、彼は車の外に転がっていた。窓から車の外に這い出て、エリザベスは彼に走り寄る。
「ダスティ、しっかり!」
 肩に手をかけると、彼の腕はあり得ない方向に折れ曲がっていた。意識もなく、三人の中では明らかに一番の重傷だ。

「リズお嬢さん――いけないですよ。揺さぶらないでください」
 エリザベスと同じように窓から這いでてきたロイは、注意深くダスティの様子を確認する。
「わかってるわ。素人が下手なことをするよりも、医者に見せた方がいい」
 大陸にいた頃には、けが人を間近に見る機会も多かった。やってはいけないことくらいわかっている。

 どのくらいの間意識を失っていたのだろうか、あたりは明るくなり始めていた。見上げれば、崖の上からここまで転落してしまったようだ。
「でも――ここからどうやってあがったらいいんだか。簡単に登れそうな道もないし」
 細い道のところに柵がつけられていたのは、同じように転落する車が多かったのだろう。ダスティの運転する車は、その柵を破壊して下に転落したわけだが。
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