レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
―閑話 ― ある執事の受難その5
 このままでは、本当に自分は胃痛で死ぬのではないかと執事は思った。
「……お前は、小心者だから……もっと他の仕事を探した方がお前のためなのかもしれないな」
 と、今は亡き父親がこぼしたことを思い出す。この屋敷での生活は、他での勤めと比較したらはるかに楽であると言うことは、ときおり会う他の屋敷の使用人達との会話でもわかっていた。
 
 衣食住、全て、他の屋敷と比較すればはるかに好待遇だ。本来の執事の仕事ではない役割まで期待されている一面もあるが、その分はきちんと給料に繁栄されている。
 執事の衣類は主からのお下がりが多いのだが、彼の主は女性ということもあり、年に三回、仕立屋を呼んで、使用人全員の衣服を仕立ててくれる。
 
 メイドであるマギーには、彼女からのお下がりでもよいのだが、「マギーだけお下がりだなんてかわいそうじゃない」というのが彼女の言い分だ。
 着なくなった衣類は、しかるべきところに送って役立ててもらっているし、もともと必要以上に着飾りたがるタイプでもないから、その数もさほど多いというわけではなかった。
 
 夜中に客人を連れ帰って大騒ぎすることもなく、出されたメニューが気に入らないからと作り直しを求めることもない――他の屋敷で働く知人の話に寄れば、そんなの当たり前なのだそうだ。
 パーティーに出かけて遅くなることもあるが、メイドを早く休ませる気遣いも持っているし、困っている人間をほうっておくこともしない。
< 174 / 251 >

この作品をシェア

pagetop