レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
膝の上に本を置き、ページをめくってはいるのだが少しも頭に入ってこない。ちらりと時計を見上げるとそろそろ夜があけようとする時間帯だ。東の窓が白々と明るくなり始めている。
「……いくら何でも遅すぎる」
パーカーは立ち上がった。こんな時間になるまで連絡一つないとはエリザベスらしからぬ行動だ。
最悪の事態を想定し、すぐに出られるようにと用意を始めるパーカーは、自分の胃が痛みを訴えているのも忘れさっていた。
その不吉な予感は、最悪の形であたることになった。車は大破、一人が入院。エリザベスとロイは、軽傷だったけれど、運転していたダスティはしばらくの間、舞台に立つことはできないだろう。
――何をやっているのだ、自分は。
パーカーは唇を噛む。いやな予感はしていたのに、エリザベスの好きにさせていたのは自分の落ち度だ。今後は、こんなことがないようにもっと気を引き締めていかなければ。
エリザベスは仕事部屋に閉じこもったまま、出てこようとはしない。彼女は彼女なりに落ち込んでいるということなのだろう。
「軽食をお持ちした方がよさそうだな」
すぐに彼女は立ち直るだろう。そうでなければ、犯罪者がうろうろしている大陸で生き延びることなどできなかっただろうから。
料理人にサンドイッチを用意するよう命じる。
まだ、しばらくの間は胃薬を手放すことはできそうにない――けれど。
彼も自分の役目を投げ出すわけにはいかないのだった。