レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
結局、彼の事務所を使い続けているのは、この愛嬌が憎めないからなのかもしれなかった。
「冗談じゃないわ。あなたとの取引をやめさせようってとこまではまだいってないけど。……ところで、ここについて何か知ってる?」
エリザベスはオルランド公爵の財布から盗み出した住所、『レクタフォード十五番地』と書いた紙をアンドレアスの前に滑らせた。
「お嬢様のような方が行かれる場所とは思えませんな」
どちらかといえば、いかがわしい通りであることは、先日前を通っただけで伝わってきた。
「あなたは?」
「時々——いや、そうではなくて」
思わず口を滑らせかけたアンドレアスは、慌てて紙片に視線を戻した。
「新しく建て直した建物——もしくはその近辺ではありませんか?」