レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

 それはともかく、どこぞの舞台女優が監督と「ねんごろ」になっているだの、酒場で歌っている歌手の引退問題だのと芸能関係の記事に目を通し。
 さらには、エリザベスも出入りしている社交界の女性達の交友関係に目を通しおえ、そこでようやく時計に目をやる。
 
 ——遅すぎる。
 リチャードの家にいったということはわかっているのだから、多少遅くなったところで騒ぎ立てる必要まではないのかもしれない。
 だが、早朝屋敷を抜け出して散歩に出かけるのはしょっちゅうだけれど、「帰る」と言った時間にエリザベスが戻っていないということなど今まで一度もなかった。
 
 とっくの昔に真夜中は過ぎていて——というより、もう明け方近い。
 夜が明けても戻らなかったら、失礼にならない時間にリチャードの家に使いを出すことにしよう。
 きっと、向こうで具合が悪くなるとか何かあって、一晩泊めてもらったに違いない。
 
 そう思い込もうとしていたけれど、一度芽生えた不安はますます大きくなる一方だった。
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