レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「では、始めましょうか——」

 エリザベスが扉に隠れて見守っていると、頭巾の男は機会に近寄り石炭をセットした。思わずエリザベスは身を乗り出す。扉がきぃっときしむ音がした。

 ——しまった!

「誰だ、そこにいるのは! 出てこい!」

 出てこいと言われて、素直に出るはずもない。エリザベスは扉を閉じると鍵をかけた。

 瞬時に身を翻し、侵入するのに使った部屋へと駆け込む。とっさに内側から鍵をかけ、窓の方へと走り寄った。

「誰か! 賊が入り込んでいるぞ!」

 がたがたと扉をゆずりながら男が叫ぶ。エリザベスはその声にはとりあわず、窓に手をかける。

 地面に飛び降りるのと同時に、玄関から男達が飛び出してくる

「いたぞ!」
「あいつだ!」

 声を背後にエリザベスは駆けだした。このあたりの地理はよくわからないが、男たちを何とかまくしかない。

「こっちです!」

 駆け出すのと同時に鋭い声がして、手首を掴まれ、路地に引きずり込まれる。

「何するのよ、離し——!」
「静かにしてください、お嬢様」

 その声が聞き慣れたパーカーのものであることに気がついて、エリザベスは声をあげるのをやめた。

「話は後です、とにかくこの場を離れましょう」

 二人が走り始めると、あちこちで男達の和さぐ声が聞こえてくる。さらに、夜の町の喧騒が重なって聞こえてきた。

 人通りの多いところへ向かうのかと思ったら、いくつかの路地を駆け抜け、狭い路地へと連れ込まれる。

 上からばさりと布をかぶせられて、エリザベスの視界が真っ暗になった。

「な、何……」
「いいから、あなたは黙っててください」

 壁に押しつけられたかと思ったら、耳元でささやかれる。彼の吐息に、鼓動が急に跳ね上がるのを感じた。

 顔を赤くして、パーカーを押しやろうとするが、肩にかけられた手に力がこめられるだけ。

「黙ってください、お願いですから」

 パーカーはエリザベスの体に腕を回す。もう片方の腕で頭を抱え込まれてエリザベスは硬直した。
 大陸にいた頃、際どい矩形を見たことは山ほどあるけれど、さすがにこういう状況に自分自身が置かれたことはない。
 口を開いたり閉じたりしていると、どやどやと足音がこちらにやってくるのが聞こえた。

「こっちか……いや、違った」
「おっとお楽しみ中だ」
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