レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「申し訳ないとは思いましたが、昨夜は玄関ホールを見張っておりました。あの場にいれば、玄関から出ても裏口から出てもわかりますからね。ですから後をこっそりとつけました。乗った地下鉄ですぐにわかったのですよ。以前ご命令なさったあの建物に向かわれるのだとね——ですから、車を回しておきました」
「……パーカーにはかなわないね」

 エリザベスの口から出たのは、素直な賞賛の言葉。

「不法侵入をした時にはとめようと思いましたが、とめる間もありませんでしたから……お出かけになるのでしょう?」
「もちろん、行くわ。リチャードを取り戻さないとね」

 負けるわけにはいかない。やるべきことをやるためには、まずはしっかりと体力を回復させなければ。
 トレイの上の料理が空になるのを待っていたパーカーは、一礼してそれを取り上げた。

「それでは失礼します。お夕食は軽めの方がよろしいでしょうね」
「……そうね。ご馳走は帰ってきてからにしましょう」

 彼を見送り、笑ってエリザベスはベッドから飛び降りた。気合いを入れ直してしっかりと足を踏みしめる。

「やるしかない」

 そう自分に言い聞かせて、ぐっと拳を握りしめた。

「マギー!」

 呼ばれたメイドがばたばたと部屋に入ってくる。

「明日までお休みあげる。クローゼットの黒いブーツと、リボンのついたパンプスを磨いたら出かけてもいいわ。そうだ、実家にでも行ってきたら? 明日の朝の身支度は簡単にすませるから」
「いいんですか?」

 ぱっとマギーの顔が明るくなった。エリザベスはマギーの手にコインを滑り込ませる。

「お土産でも買って行きなさいな。ご家族にもよろしく伝えておいてちょうだい」
「ありがとうございます!」

 大はしゃぎでマギーが出て行くと、エリザベスはクローゼットを開いた。クローゼットの一番上段に置かれている箱。エリザベスはそれを手に取る。

「……これをもう一度使うことになるとは思わなかったわ」

 エリザベスは箱をベッドの上に置いて中身を取り出した。箱に収められていたのは拳銃だった。ラティーマ大陸にいた頃、何度も身を守るのにつかった銃。

 丁寧に分解して、掃除をする。もう一度組み立てて弾を装填した。鏡に向かって構えてみる——大丈夫。
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