レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
私も……あなたが好きだった
 パーカーがリチャードを介抱している間も、エリザベスとダスティの会話は続いていた。

「私はね、あなたのファンなの。それも熱烈な……、ね。どんなに取り繕っていたって声でわかってしまう。それに、動きがおかしいもの。腕、骨折しているのでしょう?」

「ああ、そうだった。君は鋭いね、リズ——」

 感嘆したような声でそう言うと、ダスティは深々と息をついた。エリザベスとダスティの視線が絡むけれど、そこに以前あったような親密さはなかった。
ぴりぴりとした空気が二人の間に漂っている。

「なぜ、侵入したのが私だとわかったの?」

「あの部屋に、髪が落ちていた。見事な金髪が、ね。窓をつたっておりていく金髪の小柄な女性が、そうそういるとも思えないよ。暗黒大陸で生活していた女性ならともかくだけど」

「なるほど。その条件満たす女性は、たしかにあまり多くなさそうね。私も、他にはあと一人しか思い当たらないもの。その一人っていうのは、サーカス団で空中ブランコに乗ってるけど、今は地方巡業に行ってて都にはいないんじゃないかしら」

 その言葉に、ダスティが小さな笑みを漏らした。

「君のところに手紙を送ったのは賭けだったけど。人をやって見張らせていたら、使用人皆に休みをやって外出させていたからね。これは間違いない、そう思ったというわけさ」

「髪を落としていたとは思わなかったわ。今後、人様の家にお邪魔する時は髪を落とさないように注意しなくてはね」

 まさか、そんなところから自分のことがばれるとは思っていなかった。見通しの悪さというか運の悪さに変な笑いがこみ上げてくる。

「僕は感心してるけどね。君はよくやったと思うよ。数少ない情報を拾い集めて僕のところまでたどりついた。普通ならできないことさ」

「そうでもないわ。偶然によるところも大きかったもの」

 アンドレアスの調査、テレンス・ヴェイリーがくれた情報。
そしてエリザベス自身の思い込み——断じて推理ではない——がなければ、ここまではたどり着かなかった。

「それでも、だよ。君の行動力はレディではないかもしれない……けれど。だからこそ君を好きになったんだ」

 それは、違う状況で聞いたならば、きっと心から幸せを覚えることができた。けれど、今はその言葉を嬉しいなんて思うことはできなかった。

——だから。
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