レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 ダスティが狼狽した声をあげた。

 その理由が、エリザベスにはわかったけれど今口にする必要もないだろう。中身を入れ替えていたなんて。

 機械の揺れは、ますます大きくなっていき、そしてついに爆発した。皆、床に倒れこむ。上がった炎が、ひらめくカーテンを舐めた。

「火事になるぞ! 急げ!」

 その場にいた者全員が慌てて逃げ出した。パーカーとトロワ刑事がリチャードに腕を貸し、ヘザー警部はエリザベスの頭の上からスーツの上着をかぶせて彼女をかばう。

 先を争うようにして階段を駆け下り、建物の外へと飛び出した。

「あいつらを逃がすな——追え!」
「追え! 追うんだ!」

 ヘザー警部は、エリザベスの頭から上着を剥ぎ取ると、それを羽織りながら次々に部下たちに指示を出していく。

 後に残されたのは、エリザベスとパーカー、そしてリチャードだけだった。
 
「——ダスティ」
「やあ、意外とバレてるもんだね。警察の奴らは、皆を追いかけて行ってしまったのに」

 建物の陰から出てきたダスティは、両手を挙げて降参の意を示しながら出てくる。
 まだ、握ったままだった拳銃を、エリザベスはもう一度ダスティに向けた。
 
「自首、してちょうだい」
「……それはできないな。ごめんね」
「ダスティ! 逃げてはだめ!」

 身を翻してダスティは走り始める。エリザベスは、彼の足めがけて拳銃を撃った。
 銃声が夜の町に響き渡り、一瞬彼がよろめく。後を追おうとしたけれど、彼の姿は闇に紛れて消えた。

「……帰りましょう。もう、私たちにできることはなさそうだもの」

 黒煙のあがる建物を背にエリザベスはそう宣言する。響いた銃声に、一度は散っていった警官のうち何人かがこちらへと戻ってくるのが見えた。

「その前にアディンセル様を病院にお連れしなければ。たいした怪我ではないと思いますが」
「ここで待っているわ。目立たないように車を回してちょうだい。離れた場所に停めておいてよかったわね」
「かしこまりました。目立たないようにというご命令については難しいと思いますが」

 パーカーはエリザベスとリチャードをその場に残して立ち去る。その背中が満足そうであることを、エリザベスは気づいていた。
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