レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
当面の間は、人の噂になることまでは避けられないが、そのくらいはしかたないだろう。

「あなたも反省すべきだわ。私はお金なんていらないって何度も言ったのに」
「それとこれとは別問題だよ……」

 弱々しい声でリチャードは言う。彼の目的も金銭だった。

「でも、婚約の話はしばらく止めておくことにする。君に堂々と求婚できるようになるまで」

 そう宣言するリチャードの方に、エリザベスはちらりと視線を投げかける。それからぷいっと顔をそむけた。

「じゃあ、君は、だよ? 何でキマイラ研究会に興味を持ったのかな? 助けに来てくれたのは感謝しているけれど」
「ああ——あれ、あれね……うちに置いてあった品が盗まれたからっ」
「安物だし、興味はないとおっしゃっていたようですけれども。彫像は焦げてしまいましたし、時計は『彼』とともに行方不明でお気の毒ですね」

 お茶のおかわりを注ぎながら、ちくりとパーカーは皮肉を言った。エリザベスはますますむくれた表情になる。

「それはそれ、これはこれでしょう? だいたい、欲しかったものは取り戻したもの」
「欲しかったもの、って何?」

 リチャードが問う。包帯を巻いたままの頭をかしげてエリザベスの方を見ていた。
 エリザベスは、自分の首にかけていたペンダントを取り出す。

「この、ロケットの中身。時計に入ってたんだけど、取り戻してこっちに入れたからもういいの」
「ロケットに入れるって……? 写真か肖像画くらいしか思い当たらないんだけど」
「昔の写真だけど、見る?」

 今度は、ソファに横たわっていたリチャードが少々むくれた表情になったけれど、かまわずエリザベスはロケットを開いてリチャードの目の前へとつきだした。
 ロケットの中身に、その場にいた人達の目が吸い寄せられる。

「これ、リズ?」
「そうよ、可愛いでしょう」
「——相手の顔が見えないな」

 ロケットの中に納められていたのは、椅子に座った少女と、その背後に立つ少年の写真。椅子に座った少女はこちらをまっすぐに見つめている。
けれど、背後にいる少年の顔は、上から紙が貼られて顔が見えないようにされていた。

「これでいいの。だって忍ぶ恋なんだもの」

こう写真を公開していては忍ぶも何もないはずだが、エリザベスはそれを気にしていなかった。
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