レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「昔、ちょっと好きだったのよね」
「……何だよ、それ」
 むくれたリチャードにエリザベスはにこやかな微笑を投げかけた。

「ちょっとだって言ってるでしょ? それに彼が私のことどう思っているのかなんてわからないもの」

 リチャードの隣から写真をのぞき込んだパーカーの喉が妙な音を立てた。
彼の方へちらりと視線をやって、口角を上げて見せたエリザベスは、ロケットを取り戻し、ぱちんと閉じて首にかける。

「要はまだ結婚するつもりはないってことだよね」
「あら、ばれた?」

「まあ、いいけど……婚約の話は一度止めてほしいって言ったのは僕だしね。そう言えば、大学で教える件はそのままうまくいきそうだよ。オルランド公爵も、現実に罰せられているというわけではないし」

 リチャードが真面目な表情を取り戻した。

「あら。あなたが教えるのなら、大学行ってみようかしら。叔母様にもう少し勉強しなさいって言われているの。それにあなたの友達、楽しそうな人ばかりだったし」

「大学の入試に合格できるからね。一応、王立大学だから厳しいよ? まあ、リズがそうしてくれたら嬉しいけど——教壇にいる僕を見たら僕を見る目が変わるかもしれないし」
「素敵! ねえ、パーカー、どう思う?」
「未知の世界での新しい冒険、というところでしょうか。よろしいのではありませんか?」

 暴走はするな、という表情をしながらパーカーはエリザベスの側にケーキの皿を置いた。

「そうよねえ、そろそろ新しい冒険に乗り出すのもいいかもね」

おそらく、どこへ行こうとエリザベスは変わらない。
乗り気になったエリザベスの言葉に、パーカーは胃のあたりに手をやり、その様子にリチャードは小さく吹き出したのだった。
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