レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「なんでえっ!?」

 エリザベスの声が裏返った。乱暴にカップをソーサーに戻し、がちゃんという耳障りな音が響いた。

「リチャード・アディンセル様にお会いする前にお嬢様とゆっくりお話したいのだそうですよ」
「……やられたっ」

 リチャード・アディンセルに会うとは言ったが、叔母の家に滞在する約束まではした覚えがない。日帰りのつもりだったのに!

 パーカーが言いくるめられた――いや、パーカーもぐるだ、間違いない。執事としては主を独り身にしておくわけにはいかないだろう。
 
 彼の立場からはっきりと「嫁に行け」と言うことはできないが、結婚相手を見つけるのは何かと難しそうなエリザベスを気にかけているのはエリザベスだって知っている。

「うぅ……」

 エリザベスは唸った。

「まったく、油断も隙もないんだから……叔母様のところに行ったら、新しいドレスを仕立てさせられるわね、きっと」

 ため息はついたけれど、娘のいないレディ・メアリは、エリザベスを着せかえ人形代わりにしているふしもある。それが叔母の楽しみであることを知っているから、エリザベスもできる限りそれにつき合っていた。
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