レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「何をって……、あら、悪かったわ」

 けろりとして、エリザベスはパーカーから離れた。

「……ラティーマ大陸ではどうかまでは存じませんが、こちらでは男性の首にいきなり飛びつく女性はおりません」

「……執事でも?」

 エリザベスは首を傾げる。

「執事でも、です。お嬢様」

 露骨につまらなそうな顔になって、パーカーから離れたエリザベスは頬を膨らませた。

 その様子を見ながら、パーカーは深々とため息をついた。奔放に育った、とレディ・メアリから聞かされていたが、まさかこれほどとは。

「本当は、私の屋敷に来てもらえたら一番いいのだけれど……本人がうんと言ってくれないのよ」

 数日前、いざエリザベスが戻るという知らせが来た時に、レディ・メアリから聞かされた言葉が頭に蘇る。

「だから、屋敷にいる間はあなたがしっかりと監督してちょうだい……ね?」

 その時は、かしこまりました、と返事をしたが――さて、この令嬢をどうにかすることなんて自分にできるのだろうか。
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