レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ああ、お腹すいた。ねえ、すぐ朝食にできるの?」

 可愛らしい空色のワンピースを自分で着て出かけたのはよしとしても、それがどろどろに汚れているのは何故なのだろう――そこを追求してはなるまい。彼女が「お嬢様」ですむ年齢を過ぎつつあるとしても、だ。

「――どちらへお出かけでしたか?」
「ん、ちょっとね」

 エリザベスの目が、わかりやすくパーカーからそらされる。
 これは、彼女の叔母であるレディ・メアリに知られたくないようなことをしていたに違いないと確信する。それは、今食堂にいる使用人達の総意でもあるだろう。

 いろいろ言いたいことはあるのだが、パーカーは口を閉じておくことにした。とりあえず、どろどろの服で食卓に着くのだけは阻止しなければ。

「朝食の前にお召し替えを」
「えー、お腹すいた」

 ぷぅっとわかりやすくむくれたエリザベスは、今年十八になった。

 年齢のわりに言動が幼いのは、エルネシア国国内ではなく、暗黒大陸と呼ばれるラティーマ大陸で育ったからなのだろう。あちらでは、まともな教育を受ける機会などなかったとはいえ、少々型破りすぎるのは否定できない。

 そんな彼女の行く末を案じた親族が結婚話を何度も持ち込んできたが、一度も合意に達したことはない。彼女が全力で見合いの席をぶち壊してきたからだ。
< 5 / 251 >

この作品をシェア

pagetop