レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「帳簿をね、調べていたらおかしいってことに気がついたのよ。毎日届けてもらって正解だったわね」

 ヴァルミア伯爵邸に滞在している間も、暇を見つけては帳簿を調べていた。レディ・メアリにあちこち連れ回されていたから、ものすごく捗ったとは言い難いのだが。

「いろいろつきあわせて考えたら、アンドレアスが怪しいような気がするのよ」

 テーブルに頬杖をついて、エリザベスは天井を見上げる。

「さようでございますか……すぐに、警察にお届けになりますか?」

 パーカーが不安そうな眼差しになる。それに気がついて、エリザベスは手をふった。

「……考えるわ。しばらくの間は、ね。証拠がないんだもの」

 怪しいとは思うが、確証はない。

 アンドレアスの不正は――犯人がアンドレアスだと仮定して――マクマリー商会の屋台骨に影響を及ぼすほどのものではないのだし、もうしばらくの間は泳がせておいても構わない。
 
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