レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「まあ、楽園騎士団の目的はどうでもいいのよね」

 それはエリザベスの手の届く範囲ではない。エリザベスは、『スキャンダラス・ニュース』を脇へよけて、『デイリー・ゴシップ』を取り上げた。

 楽園に戻れるのなら――エリザベスの記憶は、不意に過去へとさかのぼる。
 エリザベスにとっての楽園は、この屋敷で暮らしていた幼年時代だろう。あの頃は母も生きていたし、放蕩者として知られた父の遊びもほどほどだった。

 母が病みついた頃から父の遊びはどんどん激しくなっていき――ギャンブル、飲酒。女性問題がなかったのだけは、認めてやってもいい。

 彼の遊びは、病み衰えていく愛する女性の姿は見たくないという弱さが招いたものだから。

 エリザベスの母が息を引き取った時には、ギャンブルによる借金でマクマリー家の財産はほとんどが差し押さえられるところだった。

 先代の執事、つまり今の執事ヴァレンタイン・パーカーの父親も手を貸してくれて、借金は何とか返したものの体面を保つだけの財産は残っていなかった。

 当時のエリザベスが今の年齢であれば、家柄目当ての財産家のもとに嫁ぐこともできただろうけれど、あいにく当時の彼女はまだ十歳になるかならないかの少女でしかなかった。

 どうにも逃げ場のない中、父の背中を押し、いや蹴り倒してラティーマ大陸へ渡ることを決意させたのは、エリザベスだった。
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