レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「失うものなんてないのだから、行ってみるべきよ。だって、お母様だって、そんなうちひしがれたお父様は見たくないと思うもの」

 娘のこの言葉が功を制したのか否か。それは今となっては父にたずねることもできない。
 
 ラティーマ大陸が別名暗黒大陸と呼ばれているのは、内乱が続き、開発が遅れていたことから気性の荒い者が多いからだ。ここ十年ほどで、いくらか変わってきたものの、昔の主な産業は鉱脈から産出される様々な鉱石類。

 まともな貴族が行くような場所ではなく、鉱山で働くために罪を犯した者が送り込まれていた時期もあった。

 最後の良心で娘はエルネシア王国に残そうとした父にエリザベスは強引についていき、金鉱を発見することができた。

 男爵もギャンブルからは足を洗い、国で屋敷を守っている忠実な執事に十分報いるだけの送金もできるようになった。

 執事父子がいなかったら、今のエリザベスはいない。

 けれど、パーカーは知らないだろう。

 ラティーマ大陸に渡る日、エリザベスが家に仕えていた少年と二人でとった写真をこっそり荷物に入れていたことを。

 エリザベスにとって、聖骨なんてどうでもいいのだ。大切なのは、懐中時計を取り戻すこと。

 手元に置いておくのは気恥ずかしくて屋根裏部屋に封印していたけれど、あの中には骨以上に大切な物も入っている。
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