レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 肩をすくめたエリザベスhあ、椅子から身を乗り出し、パーカーに買い与えた席を目で探す。こちらを見上げている不安そうな顔を見つけだすと、ぶんぶんと大きく手を振った。
 少なくとも、今のところは無事だ。まあ、劇場なんて場所を指定してくるという以上、騒ぎを起こすつもりはないであろうということも予想はしていたのだが。
 何かしでかそうと思うには、ここは、あまりにも人の目が多すぎる。

 エリザベスの視線を追っていたヴェイリーの目が、どうやらパーカーをとらえたらしい。
「お友達ですか? レディ?」
「チケット一枚しかくださらないなんて、案外吝嗇なのね、ヴェイリーさん。私が一人で劇場に入れるはずもないでしょう?」
 ヴェイリーは申し訳なさそうに手を振った。
「申しわけございません。どうも不手際が続きますな――すぐにお呼びいたします。あそこにいるのはどなたですか?」

「家の執事よ。何でもやってくれる忠実な、ね。相手がどなたかわからないんですもの。連れてくるのは当然でしょ?」
 ヴェイリーは手を叩いた。扉の外に控えていた男が入ってくる。完全にくつろいだ様子で腰掛けているエリザベスにちらりと目をやり、それから姿勢をただして主の命令を待った。

「レディ・エリザベスのお連れの方を、こちらのボックスにご案内しなさい」
「あら、いいの?」
「忠実な執事なら口もかたいでしょう」
「親切な方ね、ヴェイリーさん」
 吝嗇、と口にしたばかりのつい今しがたの言葉は忘れたように、エリザベスは微笑む。

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