レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「さて、お連れの方がいらっしゃる前に面倒な話はすませてしまいましょう。そろそろお芝居の幕も上がることですしな。アンドレアスのしでかしたことについては重々お詫び申し上げます。レディ」
 ヴェイリーの目が危険な光を放った。

「お望みでしたら、あいつを再起不能にすることも可能ですが――あやつの処置は私にまかせていただけませんか? 一般の方にご迷惑をおかけするとは、私の望むところではありませんのでね」

「そこまで望まないわよ、ヴェイリーさん。私はね、取引相手を変えるつもりはないの。今後、正当な取引をしていただければそれで十分」
 エリザベスの言葉に驚いたように、ヴェイリーは眉を上げた。
「報復は望まないと?」

「うーん、報復を望むと言うよりは貸し一つでいかが? ご存じかもしれないけれど、私は暗黒大陸での生活が長いから……世の中は綺麗事だけでは片づかない、というのを肌で感じたことがあると、そう言えば理解してもらえる? 私はそこに足を踏み入れようとは思わないし、あなたが何をしようとしているのかまでは追及しない。けれど、アンドレアスを失うのはもったいないかなって思うの」

 ラティーマ大陸で暮らしていた頃は、犯罪者すれすれの人間達に関わっていた時期もある。それがけして正しいことだとは思わないし、自分がそうなりたいとも思わない。ただ、そこで暮らしている人がいることまでは否定しようとは思わない。

 それに、とエリザベスは隣の椅子を占めている男を横目で眺める。この男は、白と黒を行ったり来たりしているのは間違いないだろうが、噂通りの男のようには見えなかった。
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