レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難

「寛大なお申し出、感謝いたします、レディ。この借りはいずれお返しさせていただきます」
 ヴェイリーは胸に手を当てて、恭しく一礼した。
「貸しを返していただく機会がこないように願っているわ。だって、あなたに借りを返していただく時って、絶対私がものすごく困っている時だもの」

 これで、アンドレアスの件については、手打ちということで二人は握手を交わす。
「私、お酒はたしまないの。オレンジジュースをいただけるかしら?」
 要求も遠慮していない。ヴェイリーがもう一度手を叩くと、別の男があらわれた。一度姿を消し、エリザベスの要求通りオレンジジュースを持ってくる。

 グラスを受け取ると、エリザベスは足を組み替えた。
「ねえ、ヴェイリーさん。あなた泥棒には詳しい?」
「泥棒、ですか」
「家にね、泥棒が入ったの。警察はあてにならないし――あなた犯罪組織の親玉なのでしょ?」
 困ったようにヴェイリーは笑った。

「犯罪組織の親玉だなんてとんでもありませんよ、レディ。私はただの商売人です――ただし、多少顔がきくことまでは否定しませんよ」
 帰ったらヴェイリーについてはもう少し詳しく調べた方がいいだろうが、おそらく彼に関する噂の大部分は意図的に流されたものだろう――エリザベスの勘が正しければ。
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