レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
大陸だけの風習
 搾りたてのオレンジジュースは、甘味の中に程よい酸味があって、心地よく喉を滑り落ちていく。ヴェイリーがこちらをうかがっているのも十分承知していたが、エリザベスはそれを気にせずにクラッカーにチーズを載せて齧った。

 ヴェイリーは危険な人物ではあるかもしれない。けれどエリザベスに害を与える必要はないわけだし、このクラッカーに毒物が混入されているかもしれないなんて考えるだけでも馬鹿馬鹿しい。

 エリザベスが二枚目のクラッカーに手を伸ばした頃、再び扉がノックされた。パーカーを呼びに行った男が、ようやくパーカーを連れて戻ってきたのだ。
 パーカーは執事らしい無表情を装ってはいたが、ヴェイリーのことを胡乱に感じていることまでは隠しきれていなかった。
 それに気づいているのかいないのか、ヴェイリーはにこやかにパーカーを招き入れた。

「開幕に間に合ってよかったですな……こちらが執事殿?」
「ヴァレンタイン・パーカーと申します」
 あいかわらずクラッカーを齧っているエリザベスは、にこにことしてパーカーを自分の側へと座らせる。

「こちら、テレンス・ヴェイリーさんよ。アンドレアスの件についての話し合いは一応終わったところ。大変親切にしていただいたわ」
「こちらこそ、レディ・エリザベスには感謝しております。大変寛大なお申し出をしていただきまして」
 ヴェイリーの腰は、どこまでも低い。まるで、エリザベスをあがめているかのように。
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