レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ああ、そろそろ開幕ですね。お話の続きは幕間にしましょう」
「悔しいけど、ミニー・フライは綺麗だものね……年増だけど!」
 悔し紛れのようにそう言うと、エリザベスはハンドバッグに入れていたもう一つのオペラグラスを取り出して目にあてた。
 王女に扮した主演のミニー・フライは、舞台映えする女優だった。自然と見る者の目は彼女に引き寄せられてしまう。

 それはエリザベスも例外ではなかった。ダスティ・グレンと恋仲なのは許せないが――もともと手の届くような相手ではないし、ファンなら微笑ましい目で見てあげるべきなのかもしれない。
 舞台の上では、国を滅ぼされた王女が悲痛な声をあげている。夢中になっている間に、舞台の幕は下りて、休憩時間となっていた。

「素敵な舞台だわ」
 幕が下りるのと同時に、エリザベスは素直に感嘆してみせた。ミニー・フライはとても素敵な女優だと思う。

 ――年増ではあるが。
 悔し紛れに年増と繰り返してしまうのはあまりよろしくないのだろうけれど、ダスティ・グレンと恋仲なのだから、心の中で思うくらいなら許してほしいとも思う。
 彼女の自宅に剃刀の入った手紙を送り付けようとしているわけでもないのだし。
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