イジワルなキミの腕の中で


「あ、ありがとう」



「おう」



小走りで隣に並んでお礼を言う。


付き合ってから色々奢ってもらってるから、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱい。



ホームで電車を待っている間、他愛ない会話をしていた。



先輩の両手は、今日もポケットに入ったままで……。



なんだかそれが、ものすごく寂しく感じる。



前は人前でもベタベタ触ったりして来たのに、あれ以来まったくと言っていいほど触れて来ない。



手……繋ぎたいよ。


私から繋いだら迷惑かな。


思い切って私から触れてみる?



ううん、とてもじゃないけどそんなこと出来ない。


勇気が出ないよ。



告白した時は大胆にも自分からキスしたくせに、今となっては昔の自分が懐かしく思える。



素直だった頃の私はどこへ行っちゃったんだろう。



好きなのに……。


< 163 / 177 >

この作品をシェア

pagetop