オレンジの片想い

そう言って、蒼真は悪戯に笑う。


そんな表情で言われたら、今は冷たい手だってすぐに指先まで温まってしまうだろう。



「...っす、すぐ温くなるし!保冷剤もらってきてあげる!」



手首を掴んでいた蒼真の大きな手を精いっぱい振り払って、早口で言い、逃げるように走って教室を出た。




階段を駆け下りながら、掴まれた手首を自分の掌で覆った。


ひとしきり走って、人気の少ない場所で立ち止まる。息が乱れて、整えるために深呼吸を繰り返しながら、しゃがみ込んだ。



血液が全身を巡る音がする。



...いつも、天然でやってるんだから困る。



息が整って歩き出したら、今更保健室の場所がわからないことに気づいた。通りすがった先生に場所を教えてもらって、そこへ足を運んだ。

ドアを開けると、優しそうなおばさんの保健医がいた。理由を説明すると豪快に笑って、かわいいハンカチに包まれた保冷剤を手渡してくれた。


なんて素敵なハンカチ。これで額を冷やす蒼真の姿を想像して笑みがこぼれた。




教室に戻って、蒼真の顔を見つけると、彼の方も同時にわたしに気づいたようで。

彼は本当に保健室に行ったのかと驚いていた。じゃあ何しに行ったと思ったんだ。



にやにやしながらかわいらしいハンカチに包まれた保冷剤を渡してやった。



「なんだこれ、かわいすぎだろ!」



蒼真のリアクションを見て、耐えきれずに大笑いした。彼もまた、笑っていた。



「はー、ありがとな」


「....うん」



その笑顔に、ほらまた、惹かれてく。

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