オレンジの片想い

これが、わたしの知らない間の蒼真にあった出来事なのか。



「まあ色々支えられたわけよ。んで、自分でも単純だなって思うくらい単純に好きになったってわけ」



...もしも。もしもそこにわたしがいたら、わたしは何て言葉を彼に掛けただろうか。わたしの言葉で彼を救うことはできていたのだろうか。

そう考えたら、きっとわたしは言葉を見つけられないだろうと思った。


きっと、蒼真を救うことができたのは、他の誰でもない"小夏ちゃん"しかできないことだったんだろう。



前言撤回。聞きたくなんてなかった。


自分が、どれだけ劣っているかを改めて実感してしまった。




「まあ今はこの通り、完治したから。今日からの仮入部は全部水泳部行ってくる」


「ああ!そっか。今日から仮入部期間か」



すっかり忘れていた。



「雪葉はやっぱ写真部か?」


「え....うん。覚えて、たんだね」


「覚えてるよ」



....こんなちょっとのことでほら、また好きになってる。

一言でどこが好きだなんて、やっぱり答えられるわけないな。



「雪葉」


「ん?」


「ありがとな」


「........うん」



水泳ができなくなったとき、支えてあげられたのは小夏ちゃん。だけど、今蒼真を支えてあげられるのは、わたしだけだ。

だから、



「また何かあったら言って」



なんて、心にもないことを言ってしまうんだ。
< 179 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop