オレンジの片想い
「なんで入ろうと思ったの?」
「んー、俺ん家写真館だったりすんだよ。中学ん時は何もしてなかったけど、俺長男だからさ。とりあえずカメラのこと知っとかねぇとなって」
「え!写真館?」
「おう」
「へえー、いいじゃん。写真はいいよー、知る価値あり!」
写真館やってるのかあ。全く知らなかったなあ。言われてないから当たり前か。
まあ引き継ぎでも、写真部に入ろうって思ったってことはちょっとでも写真に興味あるってことだよね。仲のいい人が自分の好きなものに興味持ってくれるって嬉しいな。
ガシャン、と自転車のスタンドを蹴った陽翔。その音に、彼の方を見たと同時に持っていた荷物の重さが消える。
鞄を陽翔がさらりと奪い、それを自転車のかごに入れた。
荷物、届けてくれるんだ。
「ありがとう」
「....うしろ」
自転車に跨った陽翔は、こちらを見もせずに、何故かぶっきらぼうにそう言った。
何を怒っているんだと不思議に思ったが、ちょっと見えた彼の横顔から、その意味がすぐに読み取れた。
なんだ、照れ隠しか。
「いいの?...じゃあ、お言葉に甘えて」
彼の服の裾も掴まずに済むくらいにまで、慣れてしまったふたり乗り。
「掴まないで平気か?」
「ふふ、吸収が早いのよ!」
「そーか、残念」
「え....わっ」
驚いてバランスを崩し、陽翔にしがみつく。
「ご、ごめん...」
苦笑いで陽翔の顔を見上げると、彼は悪戯が成功した子供みたいな笑みを浮かべた。