オレンジの片想い

テストも終わり、みんなの気が少し抜けた今日。教室でひなせちゃんと話していると、席替えをして隣ではなくなった蒼真が、こちらへ歩いてきた。




「雪葉ー、英語のノート貸して」



わたしが今ひなせちゃんと話すために座っている椅子は、わたしのものではなく、ひなせちゃんの前の席の人のものである。

だから、英語のノートを取り出すにはわたしが動かないといけないのだ。



「貸すのはいいけど立つの面倒くさいから、勝手に机の中漁ってくれていいよ」


「立つの面倒って...太るぞ」


「もう貸さん」


「ごめんなさい」



そんないつものわたしたちの会話を繰り広げたあと、蒼真はわたしの机の中から英語のノートを取り出して、自分の席で一生懸命写していた。



...こんな日常の小さなことにも、中学の頃を思い出してしまうんだよね。

"ありがとう"がないと思えば、ノートの隅にお礼の書かれた付箋が貼ってあったり。そんなこともあったな。



数秒だけ、蒼真の姿を見つめて、またひなせちゃんと話を再開させた。
< 199 / 281 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop