オレンジの片想い
テストも終わり、みんなの気が少し抜けた今日。教室でひなせちゃんと話していると、席替えをして隣ではなくなった蒼真が、こちらへ歩いてきた。
「雪葉ー、英語のノート貸して」
わたしが今ひなせちゃんと話すために座っている椅子は、わたしのものではなく、ひなせちゃんの前の席の人のものである。
だから、英語のノートを取り出すにはわたしが動かないといけないのだ。
「貸すのはいいけど立つの面倒くさいから、勝手に机の中漁ってくれていいよ」
「立つの面倒って...太るぞ」
「もう貸さん」
「ごめんなさい」
そんないつものわたしたちの会話を繰り広げたあと、蒼真はわたしの机の中から英語のノートを取り出して、自分の席で一生懸命写していた。
...こんな日常の小さなことにも、中学の頃を思い出してしまうんだよね。
"ありがとう"がないと思えば、ノートの隅にお礼の書かれた付箋が貼ってあったり。そんなこともあったな。
数秒だけ、蒼真の姿を見つめて、またひなせちゃんと話を再開させた。