オレンジの片想い

わたしに気が付いたお母さんはわたしの顔を見るなり酷く驚いた顔をした。


そりゃあそうなるか。



「...保冷剤、くれるかな」



なんだか気まずくなって目線をはずしてそう言うと、お母さんははっとしたように、冷蔵庫から保冷剤を取り出した。



「2個ぐらい渡しといたほうがいいよね?」


「うん、ありがとう」



保冷剤を受け取ろうとした瞬間、お母さんがわたしを抱きしめてきて、驚く。



「....っ!?」



言葉にならない悲鳴みたいなものが口から飛び出た。



わたしがおどおどとしていると、お母さんは痛いくらいの勢いで、バン、とそのままの体勢でわたしの背中を叩いて、離れた。


い、いたい...。


固まったまま少しだけ高い位置にある母の顔を見ると、それはもう、優しさにあふれた"お母さん"の顔をしていた。



大きくなって心も少し成長したからなのか、やっぱり小さい頃よりは距離ができていた。


だから今、久しぶりに感じた"お母さん"という親の温もりが優しくて、すごく、あたたかくなった。



保冷剤を受け取り、ハンカチも2枚持って二階に上がった。



何も訊かないでいてくれたことがありがたかった。
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