オレンジの片想い
チャイムが鳴る前に、いつもは他のクラスに行っていて教室にはいないひなせちゃんが、珍しく早めに教室に戻ってきた。その理由は、わかっていた。
わたしの姿を見つけると、ずんずんとこちらに向かってくる。そんな強張った顔されたら、こっちが緊張してしまうよ。そう思って、近づいてくるひなせちゃんの硬い表情に苦笑した。
「ひなせちゃん、おはよう」
「....おはよ」
彼女を和らげようと、わざと何もなかったように振る舞うと、少しびっくりしたような顔をされた。
たぶん、もっと落ち込んでいると思ったんだろうなあ。
わたし自身も、こうやって普通に笑ってここにいれること、想像もしていなかったことなんだけどさ。
「...いろいろ聞きたいことがあるって顔、してる」
「うん、いっぱい、あるよ」
昨日、ひなせちゃんには告白するということを言っただけで、そのあとのことは何も伝えていない。
伝える余裕がなかっただけだけど。
それでも彼女は、"どうだった"だとか、そういう催促するようなことは一切しなかった。ただ、携帯を見つめて待っていてくれたんだろう。でも今は、わたしのことが気がかりだって、心配してくれているんだって、何も発しなくても伝わってくる。
その優しさだけで、十分だ。
恋は叶わなかったけど、わたしの周りにはこうやって心配してくれる人がいる。だから、不幸なんかじゃない。そう、思わせてくれる。
「わたしも今すぐ話したいところなんだけど、もうすぐホームルーム始まるから後で話すよ」
「...ん、わかった」
時計をちらりと見て、ひなせちゃんはしぶしぶ席に戻った。