オレンジの片想い
わたしたちはそれぞれの料理を注文し、それらが届いてから、本題に入った。まずは唐突に、咲歩が言葉を発した。
「...で、瀬川くんはその西宮さん?だっけ、その子と付き合ったんだよね」
西宮さん...て、小夏ちゃんの苗字、久しぶりに聞いたな。周りにそうやって呼ぶ人が少ないから、なんだか新鮮だ。
「うん、そうなんだよー」
「ゆきはおひとよしだなあ...好きな人の恋の応援なんかしちゃって。あたしだったら絶対無理」
「おひとよしなんかじゃないよ。自分の事ばっかりだったもん」
「私も無理、絶対応援なんてできないや。自分のためだったとしてもやっぱ雪葉は優しいよ」
「...そう、かなあ」
優しい、なんて。
自分では全然そんなこと思えない。だって、心の中じゃ本当に応援してたかなんてわからないし。上手くいくなって思ったことだって沢山あるし、当たり前の感情なのかもしれないけど、蒼真に嘘ついてたことに変わりはない。
今はもう、ちゃんと応援できるけど...たぶん。
「それで木山くんもとうとう動きだしちゃったか~」
水の入ったグラスを片手に、咲歩が言う。
「なんかその言い方、前から知ってたみたいだね」