オレンジの片想い
唐突に、そう切り出した蒼真。わたしの方を見ずにただ真っ直ぐ前を向いて話す彼の横顔を、見た。
「本当は雪葉の気持ち、ちょっと気づいてた」
「......えっ」
気づいてたって...、気づいてたの?
ひた隠しにしていたのに。蒼真にだけは、ばれないって、ばれたくないって思っていたのに。
驚きの意味を込めて蒼真を見つめると、すこし顔を傾けてこちらを見て、彼は自嘲気味に笑った。そしてまた、前を向いた。
「...でも雪葉は俺にとって必要で、一緒に居て楽しかった。ずっとその場所で止めておきたくて、ずっと気づいてないフリしてた。...ごめんな」
そう、だったんだ。
蒼真が謝ることなんて、何もないのに。
「謝んないで。わたしだって、蒼真の恋を心から応援してたとは言えない。それに、応援してるフリしてでもその場所にいたいって、わたしも思ってたから」
それに、さ。
必要とされていたんだって、ちゃんとわかってよかったよ。
こんな幸せな失恋ってないよ。相手が蒼真だったから、そんなこと思えるんだよ。
「...ありがとな、雪葉」
「ううん。こちらこそありがとうだよ。...じゃあ、ばいばい」
ばいばい、蒼真。
幸せに、ね。
わたしは蒼真をひとり残し、ちょうど別れる廊下の角を曲がって、部室へと走った。