オレンジの片想い
「ちょっと待って、ごめん。えっと...」
焦ると、うまく頭が働かなくなる。たぶん、月菜は今その状態だと思う。周りに人がいないだけで、集合時間に間に合えばいいんだからそこまで焦る必要は、ない。
落ち着かせるために、地図見せて、と言おうとしたとき。
「佐伯。地図見せて」
「え、瀬川くん」
言葉を飲み込む。
蒼真が月菜の背後から、抱きしめるように地図を覗き込む。それから道を指で辿って、月菜に教えている。
わたしは見れなくて、下を向いて唇を噛んだ。それだけじゃたりなくて、両手もぎゅっと握りしめた。
なんで、わたし。いやだよ。嫉妬、してる。
蒼真は優しいからさ、仕方ないってわかってたことじゃん。こうなったのが月菜じゃない他の誰かでもきっと同じことしてたと思うし。
でも、本当に?"月菜だから"って理由もあり得ないとか言いきれない。蒼真に好きな人がいるのかも知らないから、何にもわかんないよ。
女子の友だちでいちばんって言われたって、不安ばっかりで。だってわたしのいちばんと蒼真のいちばんは全く違う意味だから。
蒼真がみんなに優しいところ、好きだなあって思う。
思うから、月菜に嫉妬してる自分が本当に嫌だ。
「道わかったから行こう!」
「ありがとう瀬川くん」
「どういたしまして...って雪葉、なんかあったか?」
「え...?」
「なんか泣きそうだから」
「...何言ってんの、全然だよ!早く行こう!」
顔を見られないように、走って蒼真と距離を置いた。
...なんで、気づくの。
嬉しくて、好きで、苦しい。