オレンジの片想い
優しい嘘
清水寺に着いて、わたしはただ茫然と景色を眺めていた。
蒼真は、いつもと変わらない様子で高木や木山くんとはしゃいでいた。それを見て、また彼がわからなくなる。
...忘れられる、わけがない。
冗談だと言った蒼真の顔は冗談だって言ってなかったよ。それなのになんで、なかったことにしようとするの。なんでそんな儚い笑顔で、突き通せてない嘘を、言うの。
「ゆき?」
「...えっ?」
「何かあった?」
咲歩と月菜が、心配そうな面持ちで訊いてきた。
ふたりに相談しようか迷った。だけど、わたしもまだ呑み込めていなくて、伝えられそうになかった。
「何もないよ?わたし、そんな顔してた?」
「いや、なんかぼーっとしてたから」
「あー、ただ景色観てただけだよ!心配ありがとうね」
「なら、いいんだけど」
嘘は言ってない。もしかしたら見透かされてたかもしれないけど、ふたりはそれ以上何も訊いてはこなかった。
憂いていると時間はすぐに過ぎ去っていて、先生が集合を呼びかけた。
これから、帰宅する。その道中も、わたしは蒼真のことばかり考えていた。
彼との会話を、反芻する。もし、蒼真がわたしのことを好きって言ったら。わたしは、どうしただろうか。迷わず同じ気持ちだと、言えるかな。たぶん、上手く言葉がでないと思うな。
だから、あのとき口ごもってしまった。
すぐに気持ちを伝えていたら、蒼真はなんて言ったかな。それとも、伝えてもまたなかったことにしたかな。