オレンジの片想い
「うわっ、もう先生いる!」
「はい、瀬川遅刻な」
「え、先生。時計ずれて...」
「ませんよ」
「ですよね。すんません」
先生と蒼真のやり取りにみんな笑う。いつも通りの蒼真だなあ。本当に何もなかったみたいだ。
蒼真が、席に着くために近づく。ドクドクと血が流れるのがわかった。前を向きたい衝動に駆られたけど、逃げちゃだめだ。ぐっと、手を握り締めた。
「....蒼真。おはよ」
ああ、下を向いてしまいたい。いつもと同じことをするのが、こんなにも難しい。
じっと蒼真を見つめ挨拶を言うと、彼はチラリとわたしの方を見て、すぐに視線を落とした。
「...おう」
、え?
変な、動悸がする。身体の表面の熱は冷めず熱いのに、中は冷たくなってく。
"いつも通り"は、完全に崩れ去った。
蒼真はわたしと全く目を合わさずに席に着いた。それどころか、わたしの方を見ようともしないのだ。そのくせして他の人には笑顔を振る舞う。もう、意味がわからない。
蒼真の顔が見てられなくなって前を向いた。
なんで急に、素っ気なくなるの。わたしは何もしてない。したのは...蒼真の方なのに。
....でもね、どうしてだろう。蒼真の笑顔が、いつもよりぎこちない。作ってるように、見えた。