オレンジの片想い

驚きのあまり目を閉じることさえも出来ず。


ほんの数秒のキスは、言いかけたその2文字を聞きたくないとでも言われているように感じた。



唇が離れて、呆然と蒼真を見つめる。


彼は一瞬目線を下げて、泣きそうな顔で微笑んで。




「好きだった。雪葉のこと」




そう告げ、蒼真はわたしを残して別れの言葉を言わずに教室を後にした。


蒼真のいなくなった教室でひとり、呼び止めることも出来ずに立ち尽くした。



ねえ、蒼真。




蒼真は嘘を吐くとき________目線を下げるんだよ。




修学旅行のときも、今も。


避けてた理由を言おうとしなかったのも、嘘を吐いたのも、きっと全て自分が転校してしまうから。言ってしまったら、別れるのがもっと辛くなってしまうんじゃないかって、思ったのかもしれない。


だけど、その嘘が胸を抉るんだ。



"好きだった。雪葉のこと"



「....っ」



痛くていたくて、涙が溢れた。



わたしが、蒼真が、少しでも辛くないように。気持ちを押し殺した彼はどんな思いでいたんだろうか。きっと言わないつもりでいたんだろう。それなのに、何も知らずにわたしは...結局お互いに傷が残ってしまった。



こんなことなら、止められてでも自分の気持ちを伝えればよかった。



もう戻れない。



中2の秋。わたしの中に残ったのは、




後悔と君の、優しい嘘。
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