オレンジの片想い
その動作に心臓が音を立てる。
「...、うん。あんまり切ったりしてないから伸ばしっぱなし」
「その割りには綺麗な髪だな」
蒼真は毛束を掬った手をするすると下へ動かし、そしてハラリとこぼれるように離れた。彼手から落ちたわたしのそれは頬に当たり、吹いた風に靡く。
な、なんか。髪の毛触られるのって緊張する。
トリートメントとかこまめにやってて良かったと心の底から思った。
確かに、蒼真が知ってるわたしは肩より少し長めの時で止まってるはず。彼が転校して中3になった頃、受験に追われて切る機会がなかったから、今は胸より下まで伸びている。
...変わった、なあ。
蒼真と再会してから何度目だろう、そう思うのは。変わってしまったことをもういちど突き付けられてるような、そんな何か。
わたしたち1年の教室は3階。会話があんまり途切れず楽しいことはあの時と変わらず、喋りながら階段を上っていた。
「そういえば、高木たちは?木山は同じクラスだけど」
「高木は違う高校で、咲歩と同じクラスみたいだよ。月菜は隣のクラス」
「そうなんだ?今度久しぶりに会いてえなー」
「またみんなで集まろうか」
「じゃあ今度連絡先送ってくれるか?」
いいよ、と言おうとした最初の文字に被さって、誰かがこちらに宛てて叫んだ。
「蒼真ー!」
...え?