オレンジの片想い

声が聞こえた方を向く。



後方から聞こえたそれは、振り向くほんの数秒で心の中すべてを支配するほどの威力を持つもので。




「小夏?」




振り向いた先に、小走りで駆け寄る1人の女の子。



"小夏"と呼ばれたその子は、立ち止まった蒼真とその隣に並ぶわたしを見て不思議そうな顔をした。それに気づいた彼が、彼女に軽くわたしを紹介する。



「こいつは俺の転校前の学校の友だち」


「あ...えと、篠井雪葉です」



首を少し下げるだけの会釈をすると、彼女はふわりと笑顔を見せた。...花が綻ぶような笑顔って、きっとこういうのを言うんだろうなって思った。



「はじめまして、雪葉ちゃん。西宮小夏です」



西宮小夏...ちゃん。上靴の色が赤色でわたしたちと同じだから、どうやら新入生らしい。




...というか、やばいぞこの子。ものすんごく、可愛い。




小さな顔の中に、つり目ともたれ目とも言えない長い睫毛付きのぱっちり二重の大きな瞳。形のいい唇と鼻。ショートカットでセンター分けの綺麗な黒髪。



芸能人にでも居そうな顔立ち。同性でも惚れちゃいそうだわ...。



「蒼真、何組だったの?」


「俺2組。小夏は?」


「あたし5組だよ~。全然知ってる子いないの」


「初めはみんなそんなもんだろ」


「そうだけどさ。蒼真はもう雪葉ちゃんいるからいいじゃん!」

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