オレンジの片想い
心臓が口から飛び出そうな程びっくりした。
そこにはさっきまでは空席だったのに、なんと女の子が座っていたのである。
真っ黒の長い髪を耳の後ろでふたつに束ねた彼女。少し長めの前髪から覗く目はタレ目がちで、口元の黒子が印象的な子、だった。
お、音も出さずにこの子は、いつの間にここにいたんだ....わたしたちが煩かったから聞こえなかっただけ?それにしたって気配がなかったしなあ。
声を出して驚いたわたしを見てまた、蒼真と陽翔の爆笑する声が聞こえる。あいつら絶対、わかってたよ。
あれ、でもこの子誰ともしゃべってないぞ。もしかしてお仲間?これってすごい好都合じゃない!?
「ね、ねえ!名前なんて言うの?」
よくやった自分!頑張った。わたしってこんなチキンだったかな....。ドキドキと心臓を鳴らし返答を待つと、彼女はゆっくりと目線を上げて声を発した。
「須田....ひなせ」
ひなせちゃん。この子、すごいかわいい声してるなあ。声優になれそうなくらい。地声でこれは羨ましいくらいだ。
「えと、わたしは篠井雪葉....といいます」
「ゆきは...ちゃん?」
「そう!よろしくね、ひなせちゃん」
「うん...よろしく、ね....」
おおお.....友だちできた!わたしは蒼真と陽翔の方を向いて自慢げにキメ顔をお見舞いしてやった。
「あ、の....」
「ん!?」
わたしのキメ顔からちょっとした変顔対決のようなものに発展していたところで、小さな声が聞こえそちらを見る。