神様のおもちゃ箱
「じゃあ、頼んだぞ、少年」
井伏は報酬だと言って、財布を探り出し、俺に千円を差し出した。
「しょぼ、千円かよ…」
とまた心の中で突っ込んでから、俺はハッとして、店を出ようとした井伏を引き止めた。
「ちょ、井伏さん!その、由紀子さんの特徴は?」
井伏はきょとんとして、右斜め上を向いて考えた。
そしてにやりと笑って言った。
「目の下にほくろのある女だ」
「ほくろ……って、それだけ?あの写真とか、ほら、連絡先とか…!」
井伏は持っていた煙草に火をつけ、「じゃあな」と店の前に留まった、これまた高そうな紺色の外車に乗り込もうとした。
「井伏さん!!」
俺は半泣きだ。
「お前、鯨の尾ひれって普通の魚と違って水平なの知ってるか?」
「は?」
「あのオブジェ作った奴は、鯨を見たことがないんだな。尾ひれ、見たことないんだよ」
意味のわからないことを言われ、俺がぽかんとしている間に、井伏は車に乗り込んでドアを閉めてしまった。
「あっ!ちょ、ちょー待って!井伏さん!」
そんな俺の声もむなしく、井伏を乗せた車はエンジン音を轟かせ颯爽と夜の闇へと消えてしまった。