神様のおもちゃ箱
受話器越しの大人
俺は考えてた。
寂しい財布の中を見て、実家からの留守電を聞いて、目の前の参考書を手に取って。
早く大人になる方法を。
大学を辞めて働く事を考えた。
退学して、就職して、由紀子さんと産まれてくる子供を養うんだ。
でもそう意気込む自分とは裏腹に、無理に決まっているだろう、何を考えているんだ、と戒める自分がいる。
とにかく俺は、俺たちの濁った未来を、必死で透き通らせようとしていた。
そうだ、由紀子さんを想う気持ちがあれば、きっと――。
「健吾、どっか具合悪いの?」
ハッとした。
授業中、隣で望乃が心配そうに俺の顔を覗いた。
「いや…」
気づいたらかなりの時間が経っていたらしい。
熱弁している教授の声が、右耳から左耳へと抜けていく。
俺は大袈裟にため息をついて、机に顔を伏せた。
すると左隣に座っている輪が、俺の腕をつついた。