神様のおもちゃ箱
さようなら、どうか元気で
「あーあー、何で何もないとこで転ぶんだよ」
「だって~!」
「いい大人が頼りねーなぁ。ほら、もう来ちゃうよ、電車」
由紀子さんは、あの時のお見合い相手と結婚する事になり、実家へ帰ることになった。
俺たちは今、駅のホームに立っている。
由紀子さんには大きな荷物。
俺の手には改札を通ってすぐ出るだけの、切符が一枚だ。
最後の見送り。
最後のお別れ。
不思議と俺の背筋はぴんっと伸びていた。
空も青い。
改めて由紀子さんと向き合うと、真っ直ぐな瞳に、吸い込まれそうになる。
ああ、何を話せばいいんだろう。
伝えたいことは沢山あったはずなのに。
「あの、さ」
「うん?」
「俺といて、楽しかった?」
すると、由紀子さんはかみ締めるように微笑んだ。
「うん。すごく、すごく楽しかった」
幸せだったと、由紀子さんは念を押した。
何かを思い出すように、由紀子さんは話しだした。