神様のおもちゃ箱
「本当に夢見てるみたいだった。
この年でも、全然遅くなんかないんだって思った。なんだろうなぁ、うん。
健吾くんは、私の青春の人」
「青春の人って」
俺は何だそれと笑った。
「大事な、人だったよ」
不意打ちに大事なことを言われて、俺の胸はざわめいた。
視線と視線が重なって、お互いが瞳の中に映った。
一瞬、気持ちが揺らぎそうになった。
ああ、ここで引き止められたら、どんなにいいだろう。
「そろそろ、だね」
耳をつくような電車のベルが鳴り響いた。
もう最後ですよ、さよならなんですよ、
そんな風に現実を告げる音だった。
「本当に今までありがとう」
「…うん」
「健吾くんは、前だけを見て、歩いていってください」
「…はい」
思わず敬語だ。
俺たちは笑った。
きっと無駄じゃなかったんだ。
お互いを大切に想って過ごした時間は、確かに間違いじゃなかったんだ。
難しいことじゃない。
だから、もう――。