神様のおもちゃ箱
電車が向こうから走ってくる。
次第にスピードが緩み、由紀子さんの迎えが来てしまった。
あの時、あの始まりの日、来なかったカボチャの馬車は
今やっと彼女を迎えに来た。
自然と出た、俺の右手と、由紀子さんの右手。
ためらいながら交わす言葉。
「さよなら」
「元気で」
ぐっと手を握り合った。
ありがとうの印。
未来への約束。
強く生きていくという誓い。
そして、きっと忘れないって気持ち。
由紀子さんは最後まで笑ってた。
最後の最後まで。
彼女を乗せた電車は、すぐに見えなくなった。
ぽつりと取り残された俺を、太陽が容赦なく照らしている。
気がついたら、もう夏なんだなぁ。
首周りが汗ばみ、蝉の鳴き声が耳をつく。
“健吾くんは、青春の人”
―――ありがとう。
目頭が熱くなるのに気がつかないフリして、
「あっちぃーーっ」
空を仰いで叫んで、俺は大きく笑った。