神様のおもちゃ箱
「俺、何もしてないっすから!ちゃんと部屋の隅で寝たし!」

「何もって……じゃあ私、何でここに……」


あぁ、この目。

何もしてないのに、痴漢だと疑われる時の気持ちって、きっとこんな感じなんだろうと思った。

彼女は完全に俺を疑っている。

冗談じゃない。


俺は無実だ!!

どちらかといえば、巻き込まれた被害者だ!!


「覚えてません?俺!」

俺は前髪をかきあげて、顔を強調してみせた。


「ねっ」

「俺…って言われても……ねぇ」


必死な俺に、由紀子さんは髪を触って、苦笑する。


「昨日、鯨のオブジェの前で会ったでしょ」

「鯨…?」

「俺、井伏さんに頼まれて由紀子さんに茶封筒を……」

「井伏さん?茶封筒……茶封……あっ!」



思い出したんだろうか。

由紀子さんは両手を口に当てて、大きく目を見開いた。


その時だ。

部屋のチャイムが間抜けに鳴った。



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