神様のおもちゃ箱

「今の奴、仲いいの?」

「え?佐野先生?別に仲いいってわけじゃ…購買に買いに来た時に話すくらい」

「あいつ、由紀子さんのこと絶対狙ってるよ」

「えぇ?もう、何言ってんの、健吾くん。あれはただの大人の付き合いよ」


――また“大人”か。

ばかにすんなよ。


「だったら、あんなに笑いかけんなよ」


俺は冷たく、というより拗ねた口調で言い放って、その場を去った。

由紀子さんがどんな表情をしてたかは、分からない。



佐野は確かここの卒業生だし、若いけど優秀だからそのうち講師から大学教授になるだろう。

社会的にも認められた“素敵な大人の男性”なわけだ。



でも……俺はまだ親の脛をかじってちまちま生活してる学生の分際……。


普通に由紀子さんくらいの女の人が、俺か佐野みたいな奴、どちらを選ぶかっていったら、断然、後者に決まってる。



由紀子さんが“付き合ってるのかどうか”をぼやかすって事は、もし由紀子さんが佐野にもしプロポーズでもされたら、俺との事は遊びだった事にして、佐野の元へ行ってしまうって事なんだろうか?


世の中には、”素敵な大人”なんてゴロゴロいるのだ。


そう思ったら急に怖くなった。

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