10京分の6
「緊張してる?」
ゆきちゃんは優しそうに微笑んで、ベッドに腰掛ける。
「してるよ、」
本心だった。何度来てもここには慣れない。私はソファに座り、左手で柔らかさを確かめていた。
「こっち、こないの?」
彼の声は少し掠れていた。
ーーほんとに緊張してるのは、貴方でしょう。
私は黙ったまま、彼のすぐそばに座った。肩が触れそうなほど近いところに。ぎし、とベッドが軋む。
「触っても大丈夫?」
いいよ、そう言った私の声も少し掠れていて、何だか恥ずかしかった。
彼の右手が伸びてきて、私の前髪を梳く。
「写メで見たよりずっと可愛いね。思ったより小さかった」
私は思わずむっとなる。低身長はコンプレックスだ。
「ゆきちゃんも、かっこいいよ」
彼は初めて言われたよ、と少し笑った。下を向くと足の大きさが全然違って、私は小人になったみたいだった。
「私も触っていい?」
答えを聞くこともなく私は手を伸ばす。まっすぐな黒髪は思ってたよりさらさらしていて、指通りが良い。
ゆきちゃんは明らかに緊張していて、顔が強ばっていた。
「さらさら。黒い、柴犬みたい」
私は犬が好きだ。従順で賢い。確かに彼の顔は柴犬のようにも見えた。聡明な顔。
「俺、柴犬飼ってるんだよ。似ちゃったのかな」
大人しく私に撫でられる彼が言った。
私は撫でるのをやめ、自分の前髪を整える。

それから私たちはとりとめのない話に一時間ほど費やした。
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