10京分の6
「あの……」
ゆきちゃんの目がふいに私を捉えた。互いの視線が交わる。くっきりとした二重の、黒目がちなアーモンドみたいな目が、すっきりとした一重の私の目を射た。
「こういうことするの、初めてじゃないんだよね?」
それは会う前にも言ったはずだ。
愚問は煩わしくて私は短く、うん、とだけ答えた。
「そっか……彼氏と?」
「当たり前でしょ」
思ったより私の声は冷たかった。
私の最初の男は、とても優しい……ひたすら甘い、そんな男だった。
私は【昔話】を振り切るように、ゆきちゃんの長い指に自分のものを絡め、そのままベッドに押し倒す。
ゆきちゃんは無抵抗だったが、その目は明らかに困惑を示していた。いけないことをしていると再認識させられる。ギシ、と軋むベッドはふかふかで私の膝も沈み込む。
「ど、したの……?」
「襲おうと思って」
ストイックな顔つきをしている男が、私の下で狼狽えている。可笑しくって、私は彼の上までしっかりしまったシャツの襟を指で弄ぶ。私の唇が意味のない言葉を紡ぐ。
「シようよ」

ふいに私の視界に天井が写った。白い、お洒落なライトのついた天井。
ゆきちゃんが私を押し倒したようだった。何度も見た景色に嫌気がさす。
「瑠依が誘ったんだよ?」
少し低いセクシーな声で囁かれる。貴方、私が誘うまで何もしないつもりだったでしょう、とは言えなかった。
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